のはな はるか

絵本作家。1989年生まれ。東京藝術大学修士課程修了。著書に『たくさんの たくさんの たくさんの ひつじ』『109ひきの どうぶつマラソン』(ひさかたチャイルド)『うさぎマンション』『ペンギンクルーズ』(くもん出版)などがある。

コピックでほぼすべてのカラーページを着彩されている、人気の若手絵本作家・のはなはるか さんにコピックや絵本制作についてのお話をお聴きしました。

きっかけはスカウトだった

のはなさんの1作目『たくさんの たくさんの たくさんの ひつじ』。当時の制作ノートには、不慣れだったコピックの塗り方を研究した跡がみられました。

 

— 絵本を描き始めたきっかけについて教えてください

のはなさん(以下敬称略):大学院生の時に展示した絵を見た出版社の方から、『絵本を描いてみませんか?』とスカウトされたのがきっかけです。

— ご自分でも思いがけず、絵本作家というお仕事を歩むことになったのですね。

のはな:声をかけていただいて、幼いころ、絵本作家に憧れていたことを思い出しました。けれども私が在籍していた先端芸術表現科は何を制作してもよいという学科だったので、実は私はそれまであまり絵を描いていなかったんです。絵本はフルカラーの必要があるので、描くとなったときはまず使用する画材を探すところから始まりました。



— いままであまり絵を描いていなかったというのは意外です!画材にコピックを選んだ決め手は何でしょうか?

のはな:私は「筆」を使うのが苦手で……作中に何度も登場するキャラクター等の絵を再現するために同じ色を作らないといけなくなる絵の具は候補から外しました。そこで、いつどこで買ってもいつ使っても、毎回安定した同じ色を使えるコピックに魅力を感じて使用することに決めました。コピックは中学生の時に少し使ったくらいで、ほとんど初心者でした。

 

— 「いつも安定して同じ色が出る」ということを評価していただけて嬉しいです。あまり使っていなかったというコピックですが、どうやって慣れていきましたか?

のはな:使い始めたときは色ムラが気になったので、色鉛筆を上から塗ってムラを見えづらいようにしたり、塗り方の技術を知るためにメイキング動画を1日中見たりと、かなり研究していました。コピー用紙や画用紙など、どんな紙と相性がいいかも試しましたね。今はだいぶ慣れて、ムラがでても「味になる」ということで許容できるようになりました。ムラが出ない塗り方の方法をよく質問されるのですが、やっぱりこればかりは練習を重ねるのが一番だと思います。

4作目『ペンギンクルーズ』の制作ノートより。色決めやキャラクターそれぞれに使用する色番号が細かにメモされています。

— 色数が多いコピックですが、最初はどんな色から使い始めましたか?

のはな:制作する絵本の雰囲気(1作目『たくさんの たくさんの たくさんの ひつじ』)にあわせて、できるだけ淡い優しい色を選びました。個人的にも淡い色が好きです。

のはなさんが選ぶ、コピック初心者さんにおすすめの色7色(左側)、一番最初に買った色のメモも記されています。初めての方にぴったりの色組!とスタッフ間で大好評でした。(右側)

— 使いやすそうないい色ですね!よろしければお好きな色番号と、初めてコピックを使いたい方におすすめする3色を教えてください。

のはな:B32がすごく好きです!初めての方におすすめするなら、B00Y11R20です。水色、黄色、赤が初めから揃っていると頼もしいと思います。混ぜて遊ぶことができる薄めの色じゃないと、最初はちょっと難しいですよね。

— どの作品も全体的に優しい色味という印象を受けますが、作画には何の紙をお使いですか?

のはな:使っている紙は1作目からすべてPMパッドです。絵本は原画が大きいので、A2サイズがある製品ということで選びました。私の作品は絵がとても細かいので、少しでも線から色がはみ出ると失敗してしまうのですが、この紙は色がにじみにくいのが良いです。発色が優しいところもお気に入りです。

新作『めいたんていワンムズ』ができるまで

— 先日発売された『めいたんていワンムズ』を読ませていただきました。主人公の”ワンムズ”が、本人の知らぬ間に事件を解決してしまうというのがユニークですよね。

のはな:最初は「絵探し」をする本を作ろうと考えていたのですが、あまりうまくいかなくて……探偵要素が足りないと担当さんに言われてしまいました。 じゃああえて、本人は何もしてないけれども事件を解決しちゃう子にしよう!と思って話を作っていきました。



— ページをめくるごとに進んで行く背景や他のキャラクターすべてがかわいくて何度も見返したくなります。今回も細かい作画が印象的ですが、工程的にはどの部分が大変でしたか?

のはな:この作品に限ったことではないのですが、私の場合絵が細かいのでペン入れが大変ですね。すべてのページに細かい絵柄への書き込みがありますが「ペン入れがはかどる状態」の時もあれば、逆に調子がわるくて決まったところに線が入らないと感じる時もあるので、ペン入れをするときは特に集中して臨んでいます。

制作途中のメモの一部。うっかりすると見過ごしてしまう背景の町やお店にも描き込みがたくさん。看板の英語表記は、お子様むけにひらがな表記に変更したそうです。

— ペン入れはもちろん、着彩も非常に繊細な工程ですよね。色決めで迷った点などがあれば教えてください。

のはな:ワンムズの衣装の色はちょっと悩みました。最初は探偵らしく茶色のコートを着せていたのですが、茶色だと背景となじんでしまって目立たないので、いろいろ試してみて最終的に青色にしました。コピックを塗った上に色鉛筆でコートの模様を描いているのですが、それも普通のチェックにするかどうか迷って、ステッチで模様をいれるのに落ち着きました。

主人公のワンムズに着せるコートは、画面にぴったり映える色を探すために試行錯誤されたとのこと。チェックの入れ方によっても印象が変わります。

主人公に着せる服の色から背景の細かい部分のデザインまで、のはなさんの絵本制作に関するこだわりをたくさんお聴きできて、一度読んだ作品も見逃しているところがまだまだあるはず!とわくわくした気持ちになりました。何度ページを開いても新しい発見ができる、のはなさんの作品をぜひお手にとってご覧ください。